「仕事の内容と報酬は、メールの文面で受け取っただけ。契約書も、いわゆる発注書も届いていない」。チャットツールやメッセージアプリで依頼が進む現場では、こうしたケースが珍しくありません。この記事では、フリーランス新法第3条が発注者に何を求めているのか、メールやチャットだけの場合に何を確認し、どう書面を求めればよいかを、条文の要旨に沿って整理します。
1. 条文は何を定めているか
第3条は、発注者(業務委託事業者)が特定受託事業者(フリーランス)に業務委託をした場合、直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを、書面または電磁的方法によって明示しなければならないと定めています[1]。原文は次のとおりです。
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、…特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法…により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
平易に言い換えると、次のとおりです。
| 何が | 誰に | いつ | どうなる |
|---|---|---|---|
| 給付の内容・報酬の額・支払期日などの明示 | 発注者からフリーランスへ | 業務委託をしたら「直ちに」 | 書面か、メール等の電磁的方法で示す義務がある |
つまり、条文は「紙の契約書でなければならない」とは言っていません。「電磁的方法」でもよい、というのが出発点です。
2. メールやチャットで受け取った場合の考え方
条文の要旨では、メール等の電磁的方法で明示された場合でも、フリーランスが書面の交付を求めたときは、発注者は遅滞なく書面を交付しなければならないとされています[1]。したがって、メールで条件が届いているだけの状況は、直ちに違反とは言い切れません。一方で、次の点は自分で確認できます。
- 届いた文面に、給付の内容・報酬の額・支払期日がそろっているか
- それが業務委託をしたあと直ちに示されたものか(作業が終わってから初めて金額が示された、など)
- 内容を決められない正当な理由がある事項(たとえば仕様が固まっていない部分)は、決まった後に直ちに示されているか[1]
どのツール(メール、チャット、メッセージアプリなど)で送られたものが「電磁的方法」に当たるのか、保存の仕方まで含めた細かな取扱いは、この記事では断定しません。公式の案内で最新の内容を確認してください[2]。実務の面では、チャットの会話は流れて見失いやすいため、条件の部分だけを日付つきで保存しておくと、後から確認しやすくなります。
3. 書面を求めるときの手順
- いま手元にある条件を一覧にする。メール・チャットから、給付の内容・報酬の額・支払期日・納期にあたる部分を抜き出して日付つきで保存する。
- 足りない項目を探す。たとえば「報酬は後日相談」のままになっていないか確認する。
- 書面(または条件を整理した文書)の交付をお願いする。電磁的方法で明示を受けた場合、書面の交付を求めることができる点が条文に書かれています[1]。
- やり取りを記録する。依頼した日・相手の返答を残す。
- 解決しないときは相談する。公式の相談窓口や、厚生労働大臣への申出制度(第17条)を調べる[2][3]。
お願いの文面は、次のように事実と依頼だけを書くと角が立ちにくくなります(あくまで一例です)。
ただし、依頼の仕方や書面の形式は取引先との関係でも変わります。迷うときは、先に取引条件を整理した文面を自分で作って共有し、相手に内容の確認を求める方法もあります。
4. 確認チェックリスト
- □ 依頼のメール・チャットを、日付がわかる形で保存した
- □ 給付の内容・報酬の額・支払期日が、文面に書かれているか確認した[1]
- □ 示された時期が、業務委託をしたあと「直ちに」だったか見返した[1]
- □ 決まっていない事項は、決まった後に示してもらうようお願いした[1]
- □ 書面の交付が必要なとき、相手に依頼した日と返答を記録した[1]
- □ 支払期日が受領日から60日以内になっているか確かめた[4]
- □ 解決しないときの相談先・申出制度を調べた[2][3]
支払期日の考え方は「報酬は60日以内に支払う」ルールとは?、明示書をそもそももらえないときの対処は取引条件明示書をもらえないときの対処法で整理しています。
5. 条件があいまいなまま進むと、入金も読みにくくなる
報酬の額や支払期日がはっきりしないまま作業を進めると、入金のタイミングも見通しにくくなります。入金までの期間が長くなる時期に備えて、請求書の支払いを早められるサービスを選択肢に入れておく方法もあります。
こうしたサービスには利用条件・手数料・審査があります。申し込む前に必ず公式サイトで最新の内容を確認してください(本記事ではサービスの条件や手数料を評価・断定していません)。入金日の見通しは入金サイクル・手元資金チェッカーでも確認できます。
まとめ
発注者は、業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければならず、メール等で明示された場合でも、フリーランスが求めれば書面を交付する必要があります[1]。メールやチャットだけだから直ちに問題、とは限りませんが、条件がそろっているか・示された時期はいつかを見返し、足りなければ書面での確認をお願いする、という順に進めてみてください。
出典(一次資料)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)第3条 — e-Gov 法令検索
- 公正取引委員会「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和五年法律第二十五号)」 — 公正取引委員会/厚生労働省「フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」 — 厚生労働省
- 同法第17条(申出等) — e-Gov 法令検索
- 同法第4条(報酬の支払期日等) — e-Gov 法令検索
本文の説明は上記の条文・案内を分かりやすく言い換えたものです。制度は改正されることがあるため、最終的な判断は原文をご確認ください(参照日: 2026-09-25)。